シリーズ 01 - エピソード 02 電子書籍日本語版
シリーズ 01 - エピソード 02
日本語版
シリーズ01 第2話
『さようなら日本、こんにちはデンマーク』
『さようなら日本、こんにちはデンマーク』
七年間暮らした日本を離れるにあたり、私に許された荷物はわずか31kgだった。
一見すると、それは単なる航空会社の重量制限に過ぎない。しかし、長い時間をかけて築いてきた生活を整理しようとしたとき、その31kgという数字はまったく違った意味を持ち始める。家具や本、仕事で使っていた機材、数え切れないほどの思い出の品々。そうしたものを前にすると、いつしか問いは「何を持って帰るか」ではなく、「何が本当に大切なのか」へと姿を変えていく。
人はしばしば、自分の人生を所有しているつもりでいる。住まいを持ち、物を集め、記憶を積み重ね、それらが自分の人生を形作っていると考える。しかし、いざ手放さなければならない状況になると、本当に惜しいのは物そのものではなく、その物に結びついた時間や記憶であることに気づかされる。本棚に並ぶ本は単なる紙の束ではなく、その時々の自分自身の足跡でもあるからだ。
また、このエピソードでは成功と失敗という言葉についても考えていく。会社はなくなり、結婚生活も終わり、日本での暮らしにも一区切りが訪れた。結果だけを並べれば、失敗という言葉を当てはめることもできるだろう。しかし、本当にそうなのだろうか。得たものと失ったものとを同じ秤に載せることなどできるのだろうか。経験や知識、言語や文化への理解といったものは、そもそも数量化できる種類の価値ではない。
その一方で、このエピソードにはもう一つ重要なテーマが登場する。
帰国便の機内で客室乗務員と交わした何気ない会話から、日本人の間ではごく自然に使われている「気遣い」という考え方が話題になった。外国人が日本語を話すと「日本語がお上手ですね」と言われることがあるが、その言葉を単なる褒め言葉として受け取ってしまうと、本当に見えてくるはずのものを見落としてしまう。相手を心地よくさせるために発せられる言葉や行動、その背後にある考え方を理解しようとすると、日本社会の見え方そのものが変わってくる。
本書は私自身の人生を語るためのものではない。
もちろん、私の経験が土台にはなっている。しかし、それは目的ではなく手段である。ある出来事がなぜ起きたのかを考え、その中から何が見えてくるのかを探り、人間や社会、文化や価値観について問いを立てることの方がはるかに重要だ。
日本を離れる飛行機の窓の外に広がっていたのは、過去でも未来でもなく、まだ形を持たない不確実性だった。そして振り返ってみると、このエピソードで本当に描かれているのもまた、日本との別れそのものではなく、人が何を価値あるものと考え、何を失い、何を持ち続けるのかという問いだったように思う。
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